その昔、ナチスはダッハウの収容者を使って人間がどのくらいの寒さに耐えれるのかと言う実験を行った。
現在でも、人間による実験を安全に行う為の目安になっているそうだ。
嘘だと信じたい。けれど、『夜と霧』を読んだら本当にあったことなんだと信じるしかなくなってしまう。
それくらい酷いことをしたんだから。
F・アッシュクロフトの『人間はどこまで耐えれるか?』を読んだ。
この本はそのタイトル通り、人間が耐えれる限界を取り上げた本だ。
そんなことを知ってどうする?と思うかもしれない。僕もタイトルに惹かれて買っただけなのではじめはそう思っていた。
けれど、本を読み進めるうちに、人間の限界を知っていれば、もしものときに助かることもあるのではないか?という気持ちになった。
先日、知床で痛ましい事故があったように、人は突如として極寒の海に放り出されてしまうこともある。
雪山で遭難してしまうこともあるかもしれない。
そんなときに僅かだけど自分の命を数パーセントでも上げてくれるものは知識だと思う。
例えば、極寒の海に放り出されてしまったとき、もがけばもがくほど身体の熱は奪われていく。
助かる確率を上げるには何もしないで、漂っているのが良いそうだ。
船が難破して冷たい水に投げ出されたときに生きのびる最善の方法は、救命胴衣を着けて静かに水面を漂いながら救助を待つことだ。
動くことによって、体温で温められた水の薄い層が逃げてしまい、冷たい水にさらされることによって、伝導によって奪われる熱が増えるからそうだ。
もちろん、そんなに冷静になれる人は皆無だろう。冷たい水に入ると心臓がドキドキと高まり、じっとしていることなんてできない。
ではどうするか?
それは事前準備だ。
もしものときに備えて普段から鍛えておくことをオススメする。
断続的に寒さに体をさらしていると、人間はある程度、寒さに適応できることがわかっている。
古代スパルタ人やイギリスのパブリックスクールの少年たちも毎日冷水を浴びる訓練をしていたらしい。
専門家も冷水を浴び続けることで、寒さに対する適応力を伸ばせるかも知れないと言っている。
そして、冷水を浴びることにより、あるものが増える可能性もある。
それは褐色脂肪だ。
赤ちゃんには電気毛布が埋め込まれているのはご存知だろうか?
頭の良い人なら気づいてくれるはずだろうが、たとえだ。
電気毛布とは褐色脂肪のことだ。褐色脂肪は赤ちゃんの肩から背中の上の方を覆っている茶色い脂肪。
その量は体重全体の4%におよんでいる。赤ちゃんがポカポカと温かいのはこのためだ。
でも、残念ながら大人になると褐色脂肪はほとんど残らない。自分のお腹についているうっとうしい脂肪は白色脂肪だ。
白色脂肪はうっとうしいだけではなく、みんなの身体を温めるのに役だってくれているが、その効果は低い。言うなれば断熱毛布。
反対に褐色脂肪は電気毛布。熱を生成しつづけている。断熱毛布と電気毛布の温かさを比べてみれば一目瞭然だ。
では、どうするか?僕は褐色脂肪という言葉を聞くとあの男を思い出さずにはいられなくなる。
「すごく寒くて、雪が降っているのに、そいつは運河に浮かんでるんだよ!」
アイスマンだ。
本名はヴィム・ホフ。
時にヴィム・ホフは南極を裸で歩く、そしてあるときは氷に埋まっている。彼は変人であるとともに寒さのスペシャリストだ。
著者に『病気にならない体のつくり方』と言う素晴らしい本がある。僕は変人が好きなのだ。
そして、僕は自分も変人になりたいと思い、6年くらい真冬でも冷水シャワーを続けている。
その効果はといえば、分からない。しかし、ガス代には計り知れない効果があることは自信をもって言える。
さて、ヴィム・ホフは著者のなかで「コールド・トレーニング」を勧めている。
自宅でできるコールドトレーニングは冷水シャワーだろう。
冷水シャワーを続けるうちに褐色細胞が増え寒さに強い身体になると言う。
そして、2011年マルリン・リヒテンベルトは研究でこう結論づけた。
低温によって褐色脂肪細胞が活性化することが判明した。温度が低くなるほど活動が高まる。
このように人は寒さに適応できる可能性がある。そして、普段から鍛えて準備していれば、極寒の海に放り出されても生存確率をあげられるかもしれないのだ。
寒さに強い身体を作るほかに生き延びるのに大事になるのは、やはり食事だ。
食べないと熱が生成されずに低体温症になってしまう。エスキモー達が寒さに耐えられるのは食事にある。
エスキモーはアザラシの脂肪たっぷりな肉を食べる。このハイカロリーな食事が寒さから身を守っているのだ。
たくさん食べるほど代謝がさかんになって、体内でより多くの熱が生成される。
冬についつい食べ過ぎてしまうのも、寒さのせいかもしれない。体が寒さから身を守るために熱が必要だからだ。
その反面、痩せやすいのも冬だと言うことができる。食欲を我慢できればの話だが。。
もし、あなたが登山が好きで冬山に行くときには、たっぷりとお腹に脂肪を付けて、グリコーゲンを蓄え、山野井妙子の冷静さを学んでから行くべきだ。
もし、道に迷ってしまい、ひとりぼっちになってしまったときに、生存確率を上げてくれるのは、脂肪とグリコーゲンと山野井妙子の冷静な判断なのだから。
>>『凍』沢木耕太郎
>>『夜と霧』
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